つくる
エンタメ専門社労士事務所
Creative Workforce Support
メンタル不調 休職・復職ガイド|会社の対応と制度設計
Chapter 4 — Trial work
リハビリ出勤(試し出勤)制度とは、長期休業した従業員がスムーズに職場復帰できるよう、正式な復職前の前段階として勤務させる制度のことです。うまくいく場合と、うまくいかない場合があります。
賃金が出るかどうかで、労災の在り方が変わります。
場面 1 / 共通の事実
自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、勤務時間と同様の時間帯を過ごしてもらって帰宅するなど、生活リズムを整え、復職の準備を進める取り組み。労働の実態がない場合、「労働者」ではないため、労災の対象ではありません。
経営者・人事
もし模擬出勤先が社内で、手が空いているように見えたとしても、仕事を渡さないでください。
労働をしないことを前提にしているのに、実際に業務をさせていた場合、その前提が崩れます。あとから労働時間として問われる可能性が出てきます。
指揮命令下になく、労働が発生していないこの期間は、社内でアクシデントにあったとしても、基本的には労災の対象にはなりません。なんら事故があった場合、任意保険での対応になりますので本人にも説明が必要です。また、模擬出勤の行き先は、勤務先ではなく、図書館や専門のリワーク施設など社外となる場合もあります。
働く方
このときの行先は職場でない場合が多いですが、もし、模擬出勤の行先が職場であった時、職場にいるのに仕事をしていないことになります。この状態は、居心地が悪いかもしれません。つい手伝おうとしてしまいます。ですが、この間は不要です。この期間に業務をすると、扱いが変わってしまうことがあります。あなたにとっても、会社にとっても、それはプラスになりません。
頼まれた場合は、断ってください。何もしていないことを、申し訳なく思う必要はありません。この期間は、そういう設計になっています。
場面 2 / 共通の事実
経営者・人事
こちらは逆です。業務をしてもらいます。
ですが試し出勤は、心身を職場環境に慣らすことが目的です。いきなり本格的な業務を行うのではなく、短い時間から始め、軽い軽作業、簡単なメールチェックなど、本格的な復職後に向けて、業務の感覚を事前につかむための訓練期間です。
やることよりも、やらないことを決める方が大切です。
周囲にも共有してください。本人が断る形にすると、断り続けることが負担になります。依頼が来ない状態を作るのが、会社の仕事です。
賃金については、注意が要ります時間が短くなった分の減額は、働いていない時間の分なので自然です。ただし、時給の単価そのものを下げるのは労働条件の変更にあたります。本人の同意が必要です。口頭の了解で進めないでください。期間と金額を明記して、書面で合意してください。
この期間は労災の対象です。無給の試し出勤とは違います。通勤も含めて、通常の労働者と同じ扱いになります。
働く方
試し出勤のこの期間は、心身を職場環境に慣らすことが目的です。気をつけてほしいのは、自覚なく業務を増やしてしまうことです。
試し出勤はあくまで試し出勤であり、本格的な職場復帰とは異なります。万全な体調でない中で、気づいたら元の仕事、元の量に戻ってしまってしまわないよう「やらないこと」を最初に決めて、会社から周囲に伝えてもらうこと、また、何か頼まれても自分ひとりでなんとかしようとしないことです。いったん会社に伝えましょう。
「こういう仕事を頼まれました」
これは、必要な報告です。
賃金についても、確認しておいてください時間が短い分だけ減るのは自然です。ですが、時給の単価を下げる場合は、あなたの同意が必要です。内容を確認して同意してください。書面でもらってください。
場面 3 / 共通の事実
経営者・人事
リハビリ勤務は法で定められた期間はないため、会社が任意で決めることとなります。長期間すぎると軽い作業に慣れてしまい通常業務への復帰が難しくなるため、期間を決めて、定点指標をもって終了させてください。担当の主観で見極めるのは困難です。主観的なイメージで捉えるのではなく、客観的な数値結果で捉えてください。
個別計画通りの出勤率を下回らない(無断欠勤・当日欠勤が0件など)
・睡眠:就寝時間/起床時間/夜間の中途覚醒/睡眠時間
・食事と行動:朝昼晩の食事状況、散歩や勉強などの活動内容
・疲労感と気分:1日を通じた気分(10点満点評価など)や疲労の度合い
・退勤後の状態:帰宅後の過ごし方、休日の状態
指定した単純作業(個別計画の定量 例70%以上など)を一定ペースで維持できているか
※夕方に極端な失速がない
・挨拶、基本的なやり取りができるか
・業務上の報告/連絡/相談(ホウレンソウ)ができるか
・自分の状況(体調・限界)を素直に伝えられるか
・指示や指摘を過剰に受け止めず消化できるか
・周囲に過度な負担や気を遣わせすぎていないか
リハビリ勤務初期は、チーム全体とやり取りさせず、限られた1〜2人のみにすることが多いです。対人コミュニケーション面において「復職できる状態」とは「みんなと明るく元気に話せること」ではありません。むしろ、体調が悪い時や困った時に、無理をせず素直に周囲へ助けを求められること(ヘルプサインが出せること)です。
これら「本人の記録」「会社の事実データ」「周囲の観察」の3つを掛け合わせて、決まった期間で、数字・データだけでドライに判定しましょう。
働く方
リハビリ勤務で確認することリハビリ勤務とは、すぐに通常勤務へ戻るのではなく、一定期間、仕事の量や内容を軽くしながら、働ける状態かを確認するためのものです。
ただし、リハビリ勤務が長く続きすぎると、軽い業務の状態が当たり前になり、通常勤務に戻るタイミングが分かりにくくなることがあります。そのため、あらかじめ期間を決め、どの状態になれば通常勤務へ戻れるのかを確認していくことが大切です。
決められた勤務日に、予定どおり出勤できているかを確認します。
リハビリ勤務中は、生活記録表などを使って、日々の状態を確認することがあります。職場にいる時間だけでなく、仕事の後に大きく崩れていないかも大切な確認ポイントです。
リハビリ勤務では、最初から通常業務をすべて行うのではなく、比較的負担の少ない業務から始めることがあります。その中で、決められた作業を一定のペースで続けられているかを確認します。
たとえば、午前中はできても夕方になると極端に作業が落ちる、日によって大きく差がある、といった場合には、まだ通常勤務には慎重な判断が必要になることがあります。
復職できる状態とは、必ずしも「明るく元気にみんなと話せる状態」という意味ではありません。大切なのは、仕事に必要な基本的なやり取りができることです。
体調が悪いときや限界を感じたときに、早めに伝えられることは、とても大切です。無理をして元気に見せることよりも、必要なときにヘルプサインを出せることが重要です。
リハビリ勤務は、通常勤務に戻っても大丈夫かどうかを、本人と会社が体感で一緒に確認するための期間です。
そのため、本人の記録、会社での勤務状況、周囲の観察をもとに、決められた期間ごとに状態を確認します。
無理をしてしまうと、その確認がズレた内容になってしまうかもしれません。今できていること、まだ難しいこと、体調の変化を正直に伝えながら、通常勤務に戻れる状態を目指していきましょう。
場面 4 / 共通の事実
試し出勤は、復職の判定材料になります。
そのため、状態を良く見せようとしたりする現象はありがちです。
経営者・人事
本人は「早く復帰しなければ」「会社に迷惑をかけている」という強い焦りや罪悪感から、必死に体調不良を隠して頑張ってしまい、無理をしている場合があります。
この、無理をしている状態のままで復職させてしまうと、以前よりさらに重度な状態での再発・再休職に至るリスクが極めて高くなります。
「良く見せようとしている(無理をしている)」客観的サイン本人は「大丈夫です!」と言っていても、以下の不自然なサイン(ギャップ)がないか観察しましょう。
勤務中はピシッとしているが、帰宅後に倒れ込むように寝てしまい、休日はまったく動けない(「土日にずっと寝込んでいる」などの発言)。
勤務時間の終盤(夕方頃)になると、極端に顔色がわるくなる、返答が遅れる、作業効率が著しく落ちる。
リハビリ勤務(リハビリ=体を慣らす期間)なのに、休職前と同じようなスピードや完成度で仕事をこなそうとする。
「何か手伝うことはありますか?」と過剰に周囲に気を使ったり、指示された以上の範囲までやろうとする。
簡単な確認漏れや指示の聞き逃しが増えているのに、「問題ありません」「分かっています」と取り繕う。
「もうすっかり元気です!」「早く元の業務に戻りたいです」と、自己評価が主医や産業医の見極めよりも不自然に高い。
「良く見せようとしている」のは、本人の復職への強い意欲の表れでもありますが、同時に不安や焦りのあらわれでもあります。本人が「もっとできます」と言ってきても、あらかじめ決めたリハビリ計画の負荷(例:1日4時間、データ入力のみ)を絶対に上げないようにします。あえて「物足りない」と感じるくらいの負荷で抑えることで、隠れた疲労の蓄積を防ぎます。
働く方
「よく見せよう」と頑張らなくて大丈夫です
場面 5 / 共通の事実
リハビリ勤務(試し出勤)は、あらかじめ設定した期間を最後まで全うするのが原則ですが、期間満了を待たずに打ち切り(再休職)とすべき危険信号が存在します。
経営者・人事
リハビリ勤務を予定期間を待たずに、打ち切りを検討すべき5つの目安。
「無断欠勤」が発生したとき
朝出社しても、体調不良で作業に入れず「別室や医務室で横になっている時間」が大半を占めるようになったとき。
自傷・他害の言動や、死をほのめかす発言(自殺念慮)が見られたとき。
勤務中に突然泣き出す、パニックを起こす、過呼吸になる、激しい怒りやパニックで取り乱すなど、感情のコントロールが完全に失われたとき。
通勤途中や業務中に「安全確保」ができなくなったとき(例:フラフラして駅のホームや階段で転倒する、信号無視や危険な横断をする、車の運転や機械操作で危険なミスをする等)。
※薬の副作用や極度の不眠により、業務中に意識が飛ぶ・激しい眠気で危険な状態になることがあります
指示やアドバイスに対して過剰に攻撃的・防衛的になり、他の社員へのハラスメントや激しい不当なトラブルを頻発させるようになったとき。
本人の状態をケアするために、指導役や周囲の同僚が通常業務を完全にストップせざるを得ず、周囲の社員が体調不良(連鎖休職のリスク)を起こし始めたとき。
産業医面談や主治医の受診時に、医師から「直ちにリハビリ勤務を中断し、休養に専念させるべき」という明確な医学的指示(意見書)が出たとき。
安全上の問題が発生した場合については「様子を見よう」「あと1週間だけ頑張らせてみよう」と引き延ばすよりも、再休職を検討した方がよいです。安全確保後、医師等へ相談して個別判断します。
働く方
試し出勤は、途中でやめることが可能です。また、事故や重症化が起きそうだと会社が判断した場合、会社側の判断で中断することもあります。
やめることは、失敗ではありません。無理を続けると、病状がさらに悪化して長期間回復できなくなる場合があります。「まだ早かった」という結果が出たというだけなので、そのときは、しっかり身体を休めることを最優先してください。
これらを事前に知っておくと、安心です。
Author