つくる
エンタメ専門社労士事務所
Creative Workforce Support
働く人のためのメンタル不調 休職・復職ガイド
前提
労働契約法第5条および労働安全衛生法第3条に基づき、企業には従業員の生命や心身の安全を確保しながら働けるよう配慮する「安全配慮義務」が課せられています。企業の労務管理において、「安全配慮義務」と「休職制度」は切っても切れない密接な関係にあります。
会社は労働者に対し、単に給料を支払うだけでなく、その労働によって心身の健康や安全が損なわれないよう必要な配慮をする法律上の義務を負っています。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
単に「危険な機械から守る」といった物理的安全だけでなく、過重労働やパワハラ等による「メンタルヘルスの不調を防ぐこと」も明確にこの義務に含まれます。
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の形成と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」
単なる努力目標ではなく、事業主が積極的に労働者の健康障害を防止し、快適な職場づくりを推進すべき責任を規定しています。
会社が過重労働を放置したり、体調不良のサインを無視して働かせ続けた結果、従業員がメンタル疾患を発症・悪化させたり、最悪の場合「過労自殺」などに至った場合、会社および経営陣は極めて深刻な責任を追及されます。
債務不履行責任(民法415条)または不法行為責任(民法709条)に基づき、数千万円から数億円規模の損害賠償請求(過労死・過労自殺判例など)が発生する場合があります。
「ブラック企業」としての報道やSNSでの拡散により、採用難、顧客離れ、企業ブランドの暴落を招きます。
労働安全衛生法や労働基準法に違反していた場合、労基署からの是正勧告や、悪質な場合は罰金等の刑事罰の対象となります。
悪質な安全配慮義務違反(過重労働の放置など)の場合、経営幹部個人に対して会社法上の役員賠償責任(株主代表訴訟等)が追及されるケースもあります。
「休職制度」は、法律上義務付けられた制度ではありませんが、会社が安全配慮義務を果たすための重要な「セーフティネット(手段)」として機能します。そして、労働者自身も、就業規則に定められた内容に基づき、自身の健康を守るために治療に専念したり、必要な手続への協力をしなければなりません。
休職制度とは、単なる福利厚生ではなく、会社が安全配慮義務を正しく履行し、従業員の健康障害を防ぐための重要なリスク管理システムです。
01 — Five kinds of rest
同じ「休み」という言葉で語られていますが、5つはそれぞれ別のものです。
労働者の“権利”が強い(法で守られた領域)
そもそも働く予定がない日
週1日以上
4週を通じて4日以上など
働く日だが、権利や会社制度で休める日
年次有給休暇
夏季休暇など
働く予定だったが、会社都合や法律等で働けない日
産前産後休業
介護休業など
日数、対象者、賃金の扱い。下限は法律が押さえています。
労働者の“都合”が強い(労使で決める領域)
働く義務があるが、労務の提供がない日
ノーワークノーペイ
長期にわたって働けない状態のときに、退職の判断を猶予する制度
法律に明確な定めなし
就業規則の内容が基本
法律による明確な定めがなく、会社が任意で制度として設ける。
法で守られた領域 休日・休暇・休業
休日は、そもそも働く予定がない日です。週に1日以上、または4週を通じて4日以上を与えることなどが法律で決まっています。
休暇は、働く日ですが、権利や会社の制度によって休める日です。年次有給休暇のように法律で定められたものと、夏季休暇のように会社が独自に設けたものがあります。
休業は、働く予定だった日に、会社の都合や法律上の理由で働けない日です。産前産後休業、育児休業、介護休業などがここに入ります。
ここまでの三つには、共通点があります。法律が枠を決めているということです。日数、対象者、賃金の扱い。会社が独自に付加できる部分などもありますが、絶対的な下限の部分は「労働者の権利」として、法律で定められています。
労使で決める領域 欠勤・休職
この2つは、性質が変わります。これがあったとき、どうするかは、会社が決めます。
欠勤は、働く義務がある日に、労務の提供がなかった日です。
休職は、長期にわたって働けない状態のときに、退職の判断を猶予する制度です。
02 — No statute
私傷病による休職を定めた法律は、存在しません。有給休暇のように「一定の条件を満たせば取得できる制度」だと理解されていることが多いのですが、根拠となる条文がないため、会社が就業規則で定めていなければ、その会社には休職という制度がないということになります。
欠勤も同様です。何日欠勤したら懲戒になるのか、賞与や昇給にどう反映するのか、法律は何も決めていません。
つまり、この二つは先に決めておかないと、起きてから決めることになる領域です。
そして、何か起きてから決めることは困難です。
結果的に、当事者の一方に不利な決定を、当事者が困っている最中に、後から作ることになってしまう。
10問、すべて事実の確認です。1〜2分で終わり、送信も保存もされません。
04 — Four limits
法律に定めがない領域なので、決め方は会社に委ねられています。休職を何か月認めるか、勤続年数で差を設けるか、欠勤をどう扱うか。ここは自由に設計できます。(ただし、労働契約、労働協約、就業規則変更の合理性、解雇権濫用法理、安全配慮義務等の制約があります)
欠勤に対して制裁を科すのであれば、種類と事由を、あらかじめ就業規則に定めておく必要があります。書いていないものを、後から適用することはできません。
欠勤による給与の減額は、働かなかった分を引く「欠勤控除」と、ペナルティとしての「減給処分」の2つに分かれます。労働基準法91条により、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1までです。(※懲戒処分としての減給に限る)
休職期間が満了しても復職できなかったとき、「自然退職とする」と定めていれば自然退職としての手続きとなりますが、「解雇する」と定めていれば、それは解雇の手続きとなります。この2つは、同じ雇用の終了でありながら、全く別の性格のものになります。
復職した社員が、しばらくして同じ理由で再び休職したとき、前回の休職期間と通算する定めがなければ、休職期間は毎回ゼロから始まります。復職後に再び休職に至るケースは決して珍しくありません。
「任意」というのは、決めなくてよいという意味ではなく、決め方が委ねられているという意味です。
05 — Who decides
もう一つ、経営者の方に意外に受け取られることがあります。本人が働きたいと言っていても、実際に働ける状態でないならば、働かせることはできません。
労働契約法5条は、使用者に対して、労働者が安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をすることを求めています。この義務は、本人が同意していても免除されません。「本人が大丈夫だと言ったから」「本人が希望したから」は、後から見たときに理由になりません。むしろ、判断すべき立場にある会社が判断しなかったという評価になり得ます。
復職の場面で、これが正面から問題になります。本人は戻りたい。主治医の診断書にも復職可と書いてある。それでも、業務を遂行できる状態かどうかの判断は、会社が行わなければなりません。その判断を、何を基準に、誰が行うのか。それを事前に決めていないと、この場面で立ち止まることになります。
復職前に、短時間から慣らしていく。試し出勤、リハビリ勤務と呼ばれるものです。休職と復職の、間をつなぐ期間にあたります。
休職中のこの期間は、労務提供がない債務不履行に対して、「解雇」を猶予する期間です。
期間中に復職できない場合、「自然退職(合意不要の退職)」となります。(※就業規則によっては「解雇」を定めている場合があります)
上限の長さを決めるのは、会社です。
復職を見極める期間。
復職した途端、就業に耐えられずに雇用を終わらせる場合は「解雇」の判断になります。(※本人からの「退職願」を受理することは可能です)
リハビリ勤務の例
実施するなら、先に決めておくこと
無給の試し出勤では、業務を行わせないことを明確にし、実施内容、指揮命令の有無、災害時の対応をあらかじめ定めます。実際に会社の指揮命令下で業務を行った場合は、名称や無給の合意にかかわらず、労働時間、賃金および労災保険の問題が生じることがあります。
規定がないまま、なんとなくリハビリ勤務を実施すると、二つの問題が起きます。
ひとつは、その時間が労働時間にあたるのかどうかが定まらないこと。軽作業だったとしても、もし実際に業務を行っていれば、賃金の支払義務が生じ、労災の対象にもなります。無給の慣らし運転のつもりで実施したものが、後から労働時間と評価され、遡及しての支払いが生じることもあります。
もうひとつは、その結果を復職判定の根拠として使いにくくなることです。制度上の位置づけがないまま行われた出勤について、「うまくいかなかったから復職を認めない」と言うには、根拠が足りません。
リハビリ勤務規定は安全かつスムーズに復職を受け入れる、極めて合理的なリスク管理
06 — Two maps, one terrain
休職規程は人事側と社員側からでは、まったく違う景色になります。
会社にとって、休職規程は「出口を見失わないための設計」です。
いつまで待ち、どの時点で判断するのか。迷わず向き合うために、あらかじめ道筋を決めておくものです。
社員にとって、休職規程は「戻る場所を失わないための設計」です。
いつまで在籍でき、どのように復職を目指すのか。安心して休むために、
あらかじめ道筋を確かめておくものです。
— same document, two maps —
休職規程がない会社の社員は、休んでいる間ずっと、会社も社員もお互いがずっと不安です。制度がないということは、守る枠もないということだからです。
07 — The timeline
経営者・人事の方へ — 何を、どこまで決めておくべきか働く方へ — 自分の会社の制度が、いまどうなっているか
初期異変から雇用終了まで、時間軸に沿った10章です。各章は「共通の事実」を挟んで、経営者・人事と働く方の二つの視点から書かれています。各行の説明は、いま選んでいる立場から見たものです。
読み進める前に、自社の規程がいまどうなっているかを確かめられます。会社に確認するとき、医師に相談するときに使えるものを置いています。登録は要りません。
10問、すべて事実の確認です。答えると、欠けている条項と、それが欠けていると何が起きるかが並びます。回答はこの画面の中だけで処理され、送信も保存もされません。
10問をはじめる面談での事実を残すシート、休職開始時に説明・確認すべき項目のリスト、復職判定のためのチェックシートです。Word形式でそのままお使いいただけます。
For workers
休職の上限、通算の有無、復職を誰が判断するか。就業規則に書かれていることが、そのまま自分の在籍期間になります。休職開始時に確認しておく項目をまとめたリストを置いています。
First 30 minutes — free
初回30分は無料です。就業規則をお持ちであれば、その場で該当箇所を確認します。まだ何も決まっていない段階でも構いません。オンラインで対応しています。
Author
代表 千葉若菜 特定社会保険労務士
エンタメ専門社労士事務所 つくる Creative Workforce Support
音楽業界で20年以上、制作・宣伝の現場に携わってきた経験を持つ社会保険労務士。エンタメ企業特有の不規則な勤務、多様な雇用形態、フリーランスとの協働を前提に、現場で運用できる労務制度、就業規則、DX、人事体制づくりを支援しています。